村上春樹さんのエッセイは最高です。「やがて哀しき外国語」vol.1
小説家・翻訳家として名高い村上春樹さん。小説はいくら読めどしっくりこず。ただ、エッセイは最高に面白くて、読みながらついつい一人で笑ってしまいます。そんな村上春樹さんのエッセイ全体と「やがて哀しき外国語」の魅力を2回にわたりお届けします。2回目はこちら(聞き手:本体、話し手:折田ちなむ)
目次
村上春樹さんの小説という“確かな壁”
「風の歌を聴け」から、小説を10冊以上読んだのだけれど
(本体:以下「本」)
村上春樹さんの小説は世界中で支持されていますよね。その小説が理解できないとは・・・
(折田:以下「折」)
10代の終わりから20代前半を中心に、私も村上春樹さんの小説を読みました。
最近読んだものも含め、ざっと思い出すだけでも、
「風の歌を聴け」「ノルウェイの森」「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」「羊をめぐる冒険」「ねじまき鳥クロニクル」「国境の南、太陽の西」「ダンス・ダンス・ダンス」「スプートニクの恋人」、「海辺のカフカ」、「騎士団長殺し」、そして2023年は「街とその不確かな壁」
あたりでしょうか。
読むんですが、正直なところ文字や展開を追うのが精いっぱいで。「なんでそんなに熱狂的な人気があるの?」と不思議で不思議で仕方ない、というのが本音です。
これを言うと、「はぁ、センスがないのね」とか「深い思考や想像力の欠如だよ」と、バカにされそうであまり大きな声では言いたくないのですが。
エッセイ本「走ることについて語るときに僕の語ること」を読んだ衝撃
本:
ハルキストと呼ばれる熱烈なファンが聞いたら、卒倒するか罵倒するかでしょうか。一方で、エッセイはとても推しだとか。
折:
打ち明けると、村上春樹さんの小説はある種、「ファッション」として読んできたのかなと思うんです。
で、よくわからない・しっくりこないので、「村上春樹さんの本を読むことはもうないな」と密かに思っていたわけなんです。
ところが、2020年から市民ランナーとしてランニングを再開してしばらくして、とあるランニング系のブログで紹介された村上春樹さんのエッセイ「走ることについて語るときに僕の語ること」に興味を持ち、読んでみました。
そうしたら、「村上春樹さんって、こんなにフツーでさばけた面白い人なの!?」と仰天してしまって。
マラソンやトライアスロンをされていたというのは聞いたことがあったのですが、「どうせ、ベストセラー作家が酔狂でやってんでしょ」くらいに斜(はす)に構えていました。申し訳ございません。
※走ることについて語るときに僕の語ることについてもコラムをいずれ書きたいと思っています。
本:
小説とエッセイで、そんなに書きぶりや内容が違うんですか?
折:
全く違いすぎて、別人が書いたものと思って読んだ方がいいです。
文体は非常にストレートな表現で読みやすく、当然読ませる文章的な巧さはあり、ところどころにウィットというか、独特な個人的な意見が組み込まれていて、クスッと笑ってしまいます。
村上春樹さんの小説はちょっと苦手、という方にはエッセイをお薦めします。
逆に小説に心酔している人がエッセイを読むと、物足りないのかもしれませんね。
あと、ギリシャとトルコを旅した「雨天炎天-ギリシャ・トルコ辺境紀行」も、一気読みしてしました。
村上春樹さん的 「男の子」たる3条件
「運動靴をはいて床屋に行こう」
本:
最後に、折田ちなむさんが最近読んだ「やがて哀しき外国語」の最も印象的かつ、村上春樹さんの小説の雰囲気と異なる個所を紹介いただけますか?
折:
「運動靴をはいて床屋に行こう」というエッセイです。題名からして、小説とトーンが全然違います。
村上春樹さんがこのエッセイを書いたのは40代に入った頃(1992年~1993年連載)で、中年と呼べる年齢ですが、自身には「男の子」に近い要素があると仰います。
で、村上春樹さん的に「男の子」たる、3つの条件があると。
(1)運動靴をはいて (2)月に一度(美容室ではなく)床屋に行って (3)いちいち言い訳をしない
年間320日くらいはスニーカーをはいているので、条件(1)は楽々クリア。
条件(3)は現実的に難しいけど、気持ち的に努力をしているので、まあ留保条件付きのクリア。
で、大事な本題が条件(2)となります。美容室は「ユニ・セックス」だから、あくまで床屋。この時点ですでにかなりユニークですよね。
村上春樹さんは、ヘアスタイルにこだわりはないが、扱いが難しいクセのある髪(髪質?バランス?)。
東京、イタリア、イギリス、アメリカ、ギリシャの滞在する各国で、どれだけ床屋で苦労したか、が熱く滔々と語られるんです。
中でも、個人的に面白かったのは、以下のシーンです。
「日本の床屋と、外国の床屋とのあいだには相当な技術格差がある。はっきり言って、盆栽いじりと芝刈りくらいの差がある」とユーモアかつシニカルに語るシーン(p187)
ギリシャの床屋に辟易とし、「男の子」としてのプライド/条件を破ってユニ・セックスの美容室に行くしかない判断を迫られたとき、「もう男の子なんかじゃなくていい。まともな人間にまともに髪を切ってもらいたい」と切実な思いを吐露するシーン(p190)
村上春樹さんのオルタナティブ
本:
なるほど!!小説における村上春樹さんの美しい文体・表現とは一線を画するものですね。
折:
村上春樹さんの「普通の人」としての側面や茶目っ気が垣間見れて、私はとても魅力的に感じました。
同時に、視点や表現の仕方、生活のスタイルは一般的というものではなく、独自性というかオルタナティブな香りがプンプンするので、そこに惹かれますね。
次回は、「やがて哀しき外国語」の詳細・具体的な魅力についてお話していきたいと思います。
折田ちなむのalternative-way-to-g…
村上春樹さんのエッセイ「やがて哀しき外国語」の魅力 vol.2 | 折田ちなむのalternative-way-to-go
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この記事を書いた人
◆オルタナティビスト:既存の価値観や視点ではなく、「alternative(オルタナティブ)=別の生き方や見方」を探す人。
◆スタンス:「Unique,Ironical,Nature」をモットーに、「それ、みんなもおかしいと思ってない?!」という本音をアンチテーゼとして発信。
◆「折田ちなむ」とは:世に溢れかえる、ありきたりで横並びのSEOコンテンツではない、本音を発信するためのペンネーム(オルタナティブ→おるた)。
◆プロフィール:40代男性/家族(妻、息子2人)/人事領域のフリーランスコンサルタント(人材業界約15年、国家資格キャリアコンサルタント、2018年独立)/東京・神田にオフィス/某国立大学大学院修了/関東在住/人口3万人の海辺の田舎町出身/市民ランナー(サブ3目標)/読書・書評系Podcast運営