「熱意ある社員」「やる気ある社員」は必要??

「熱意ある社員」「やる気のある社員」であるべき。それが一般的には正しい姿とされています。けれど、本当に「熱意ややる気に溢れる社員」は必要なのでしょうか?(聞き手:本体、話し手:折田ちなむ)

(本体:以下「本」)
毎度毎度、こういったニュース(日本経済新聞「日本の「熱意ある社員」5% 世界は最高、広がる差」20230614)に噛みつきますねー 「熱意」や「やる気」、自明であったほうが当然いいじゃないですか?

(折田:以下「折」)
視点の問題かな、と思います。
もちろん、いち個人として、生活や仕事などに対して熱意・やる気を持てたり、物事に没頭した方が本人が楽しいので良いと思っています。

けれど、こういった記事を書く目線が常に「経営者・投資家(や国)」の目線で、いかに効率よく生産性高く従業員を働かせるか、という意図を感じるから、異議あり!なんです。

本:
とはいえ、従業員がエンゲージメント高く(職場への愛着)、「いい会社だな」とか「この組織で長くがんばりたい」と思うのは良いことなのでは?

折:
それも、もちろん良いことだと思います。

ただ、この記事内でも書かれていますが、「エンゲージメントが高くないと、企業の業績などに影響を与えるから困るということで投資家から注目されている」とされ、従業員サイドの目線ではないということは、常に意識してこういったニュース報道を見たほうが良いと思います。

「従業員エンゲージメント」は働きがいを構成する主要な指標で、数字が高いと社員がより主体的に仕事に打ち込んでいることを示す。企業の業績や生産性、離職率などに影響を与えるとして、投資家からの注目度も高い。

日本経済新聞 日本の「熱意ある社員」5% 世界は最高、広がる差

本:
投資家・経営者目線発の、「従業員のエンゲージメントや熱意を向上させる」取り組みであったとしても、その結果として従業員の働きがいや働きやすさが改善したいいのかな、と思ったりもしますが。

折:
以前のコラム「従業員エンゲージメントと役員報酬の連動への不快感」でも書きましたが、ブルシット・ジョブを生み続けるだけではないかと思うのです。

投資家→経営者→経営企画など→外部コンサル会社やサーベイ・研修会社→BPO会社(アウトソーシング)という一連の流れで1つのビジネス分野が生まれ、ほとんどの関係者が疲弊して「こんなことやって意味があるのかな?」と内心思いつつ、「けれど、世の中にニーズがあるから」や「仕事だからやるんだ」と鼓舞しながら働くことが想像されます。

もちろん、エンゲージメント向上施策を通じて、やる気が出る従業員もいるでしょうし、成果を出して個人のキャリア構築にプラスになるケースもあるといったポジティブ面も認識はしています。

本:
しかしながら、根源的な動機というか、スタート地点がずれているのではないか?ということなのですね。

折:
そうだと思います。
このギャラップ社の「グローバル職場環境調査」も、投資家や経営者サイドの「従業員を効率的に働かせたい」という欲求から設計・実施された、何でもかんでも数値化・可視化したいという管理欲求の結晶だと考えます。

そして、こういった“わかりやすくて説得力を持っているような”情報発信がされることで、「日本は他国比較で熱意がある社員が少ない。由々しき事態だ。熱意を高めるべきだ」という言説が世の中に前提化して、定着します。
各会社の中でも、様々な施策やアンケート調査、人事評価項目にエンゲージメント的な要素が組み込まれて、「今の会社や仕事へのエンゲージメントや熱意が高いこと=正義」が圧倒的な主流の意見となります。

そんな状況で、一般の従業員が「えー、なんで熱意持たなくちゃいけなんですか?(他にやりたいことあるし。所詮、会社の仕事でしょ?)」とは言えなくないですか?

本:
そりゃまあ、言えまえせんよね。そんな空気を読まない発言したら、「反抗的な社員だ!」「不満分子だからブラックリスト入り」などの扱いになり、組織内でのキャリア形成に影響出ますよね。

折:
「お給料(給与)いただいているんだから、会社の仕事を頑張るのが当たり前だよ」や、「それが仕事ってもんさ。甘えたこと言ってんじゃねーよ」と、上司や先輩から注意されるのが関の山だと思います。

雇用契約という契約を結んでいるので、その中である程度の仕事をするべきなのだと思いますし、嫌な仕事も時にはやるべきだと思います。しかしその一方で「なんで投資家・資本家・経営者の利益のためにエンゲージメント高めないといけないの?」とは思いませんか?
(会社が利益を出す・企業価値を上げることが、賞与やストック・オプションなどの形で従業員の経済メリットにもなるという意見もありますが、投資家・経営者サイドの建前論・詭弁だと思います)

本:
お話伺っていると、もっと多様な視点や意見、様々な選択肢が世の中全体に提示されていると良さそうですね。

折:
まさにオルタナティブなものの見方や意見発信が必要だと感じています。
ゆえに、このコラムも細々と書き続けていきたいと思っているんです。私の意見が主流になることはないとわかりつつも。

私は、10代~30代半ばまで、今回の記事のような情報を見ると大いに賛同し、「そうだそうだ!従業員がやる気を出して仕事で成長することが最も大事だ。それが前向きに生きることだ」と勘違いしていました。

単に大きなものの洗脳されていただけなので、過去の私自身に対する反省も込めて本音を語っていこうと決意しているんです。

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この記事を書いた人

折田ちなむ (chinamu oruta)のアバター 折田ちなむ (chinamu oruta) オルタナティビスト/人事領域コンサルタント

◆オルタナティビスト:既存の価値観や視点ではなく、「alternative(オルタナティブ)=別の生き方や見方」を探す人。
◆スタンス:「Unique,Ironical,Nature」をモットーに、「それ、みんなもおかしいと思ってない?!」という本音をアンチテーゼとして発信。
◆「折田ちなむ」とは:世に溢れかえる、ありきたりで横並びのSEOコンテンツではない、本音を発信するためのペンネーム(オルタナティブ→おるた)。
◆プロフィール:40代男性/家族(妻、息子2人)/人事領域のフリーランスコンサルタント(人材業界約15年、国家資格キャリアコンサルタント、2018年独立)/東京・神田にオフィス/某国立大学大学院修了/関東在住/人口3万人の海辺の田舎町出身/市民ランナー(サブ3目標)/読書・書評系Podcast運営

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