オルタナティブな生き方 泊まれる出版社「真鶴出版」vol.2

オルタナティビスト視点から、訪れた素敵な場所や人をご紹介する第2回目。前回に続き出版社×書店×宿泊ができる真鶴出版さんです。(聞き手:本体、話し手:折田ちなむ)

目次

1泊2日の真鶴出版滞在がスタート

外から見る町は「ちょっと寂れてる・・・」。けれど

(本体:以下「本」)
前回(1回目)は、真鶴という町や真鶴出版さんに関する基本情報を伺いました。今回は折田ちなむさんが実際に真鶴出版さんを訪問した体験記を根掘り葉掘り伺っていきたいと思います。

(折田:以下「折」)
2023年に家族3人で訪れました。梅雨の時期でしたが、幸い曇りのち晴れ。

余談ですが、真鶴は漁港もあって魚介類・干物が美味しいとのこと。ただ、実は私、強度の魚介類アレルギー持ちなんです。
事前に真鶴出版さんからお薦めの飲食店リストをいただきましたが、魚介系が当然多く、(食べ物に関しては)不安いっぱいでした。
慣れてはいますが、現地の方々が好意で「おいしいよ!」や「ご馳走ですよ」と薦めてくださるものを、「あ・・・実は魚介類アレルギーで食べられないんです・・・」と返した後の微妙な反応が苦手で。

本:
で、真鶴のファーストインプレッション(第一印象)はどうだったのですか?

折:
本音を言うと、第一印象は「なんか普通のこじんまりした町だな」というのが正直な感想でした。

チェックインの1時間前に真鶴へ着いたので、町をぐるっと車で回ってみたんです。私の故郷が同じような数万人の小さな港町なので、「なんか、地元と同じさびれた感じがするな・・・(期待値を高くしすぎたか。後悔かも)」と思いました。

真鶴出版へ。言葉で形容しきれない居心地の良さ

本:
そのややトーンダウンしたところから、べた褒めするまでの変化に何があったのですか?きっかけは?

折:
まずは何より、真鶴出版さんの建物内に入った瞬間に感じたことです。書籍やWebで想像したもの以上に、「いい!」と直感的に感じたんです。

照明の感じ、ソファや家具、本の配置、キッチン周りの床材、清潔さ、全体の落ち着いた色合いといった建物から受ける印象もそうですし、いらっしゃるオーナーさんご夫妻やスタッフさんの醸し出す雰囲気も、その居心地の半端ない良さは言葉にはできないですが、なんか、自然体でいいんですよ。これがまた。

街歩き、背戸道、好きになる

本:
「言葉にできない」とは逃げましたね笑 まあ、そういった「人や場が持つ目に見えないもの」から受ける印象もあると思います。他にも印象的なことはありましたか?

折:
「この旅は成功だ」と確信したのは、スタッフさんにしていただいた、「街歩き」の時ですね。

真鶴の町の概要や特徴の説明を室内で受けたあと、1時間半ほど町を歩きながら、いろいろと説明いただくんです。正直な話、私は旅でこういったガイド的なものを受けるのがあまり好きではなくて。これまで国内外でいろいろ同様のガイドをしてもらって、「結局、お決まりのルートを定型の話でするだけ」という印象でした。

しかし、この真鶴出版さんの町歩きは全然違っていて。
1組の宿泊客に対してだからできるのかもしれませんが、スタッフさん自身ががなぜ真鶴に移住したのか、や数年暮らしてどう感じているかなど、とても個人的で深い部分も対話しながら進めてくださいました。
もちろん、こちらも今回の旅の目的や興味関心、簡単な経歴なども話しました。
真鶴の細い背戸道(真鶴特有の路地を指す)を歩きながら。

本:
観光名所や名物の食べ物を楽しむというような旅行とは、かなりテイストが異なりますね。その場所や人を日常の生活場面から知るという感じでしょうか?

折:
まさにそうですね。書籍「小さな泊まれる出版社」にも書かれていますが、「資本主義から暮らし中心主義へ」という考え方が、真鶴出版さんが提案する旅(街歩き、建物、人など)にも表現されているのだと思います。

きれいな景色を見る、建造物に触れる、お洒落なホテルに泊まる、美味しいものを食べる、なども旅行の1つの楽しみ方だと思いますし、その地域を理解する1つの方法だとも思いますが、結局はその時限りの「消費」で終わってしまうように思います。

観光ではなく、その土地の暮らしを知る

本:
折田ちなむさんの旅・旅行の経験の中で、思い出に残る場所はありますか?

折:
パッと思い出されるのは、大学時代に休学してワーホリで約1年滞在したニュージーランドです。

語学学校に通った期間以外は、その土地土地の農家・牧場を自分で探し電話連絡をしてファームステイをするか、バックパッカーホステルに長期滞在しながら多国籍の人たちと農作業アルバイトをしたり、という生活でした。

部分的にではありますが、その土地の人と一緒に暮らす時間があったので、その部分がやはり強く印象に残るし、20年以上経過してもその時の光の感じや温度、風の肌触り、匂い、対話した言葉が思い出されます。
(他にも、海外ではアメリカ、ハワイ、タイ、シンガポール、韓国に滞在経験があります)

「好きな人を増やす」 マーケティング用語ではない言葉の意味

本:
体験価値とか、コト消費とか。そういうことなんでしょうか?

折:
まあ、通じる部分はあるにはあると思いますが、なんだかそういったマーケティング用語でまとめられると、違和感ありますね。売り手側の論理が強いというか。

真鶴出版さんの言われている「移住者を増やすのではなく、好きな人を増やす」くらいのスタンスが心地よいのかなと感じます。

目的が「移住者を増やす」だと、移住する良さを訴求するために過度にアピールしたり、他と差別化する要素を無理やり作り出したりすることになると思います。

一方で、「好きな人を増やす」を目的にすると、「人それぞれの好きのなり方で、好きになってもらっていいし、好きになった後もどうぞご自由に」という、受け取り手側に様々な選択肢や余白があると思います。

体験価値とかコト消費という用語を使うと、提供者側の決めて狙った「体験やコト」を、受け取り手側にいかに届けることが大事で、どう感じられたかをアンケート調査して可視化して満足度がどうだこうだ・・・となる。そうなると窮屈だし、寂しいなって思います。

「生き方の選択肢を増やす」 真鶴出版の存在

本:
真鶴出版さんへの旅に話を戻すと、オーナーさんとの対話の時間も充実されていたとか。

折:
ありがたいことにオーナーさんと小一時間、お話する機会をいただきました。
二人の小さなお子様のこと、家庭のこと、宿泊事業のこと、地域の活動、新しい事業の考案などなど、かなりご多忙の中だったと思うので、あとから振り返ると申し訳なかった感もありますが。

書籍で受けた印象と全く変わらず、オープンな価値観、フラットな物事の見方、自然体で飾らないお人柄でした。移住された当時のこと、出版・宿泊事業について、町の暮らしや行事ごと、育児事情、移住する方のこと、全国のローカル業界の話など、多岐にわたるお話を伺いました。

個人的には1回目にも少し触れましたが、「生き方の選択肢を増やす」という部分に関して、肩ひじ張らずに、けれども力強く歩を進めて実行されていらっしゃる部分に感銘を受けました。
私は、20歳くらいから頭では考えながら、実行しきれていないので。

本:
「生き方の選択肢を増やす」とは、具体的にどういったことをイメージすればよいでしょうか?

折:
一番わかりやすい例だと、「学校卒業→会社に就職して働かないとだめ」という生き方の選択肢の狭さを止めませんか?ということです。
会社に就職したとしても、その就職先が「大企業か中小企業か」「都心部か地方か」で、その人の職業キャリアだけではなく、その後の人生全体が影響を受けてしまいます。

もっというと、その「良いとされる会社・職業に就くために有利な学校を選択する/学力テストで好成績を得る」となるので、日本だと恐らく一人の人間が生まれて、手放しでその子の成長や在り方を受け止められるのは0歳とか1歳くらいまでではないでしょうか?

そのあとは、どんな幼児教育を施すか、どんな保育園・幼稚園に入れるか、塾は、スポーツは、学校での内申点を稼ぐ活動は何か、他の子と比較してうちの子はどうだ?、と親も子ども躍起にならざるを得ないと思います。

もし、一般的に成功とされる、「経済が拡大する」「グローバル人材になる」「職業エリートになる」「経済的に(過剰に)豊かになる」「自分らしくなれる仕事を見つける」「最先端が情報がものがある場所にいる」「有名になる」などのお金や個人主義を価値基準に置いた「上昇一本槍」の価値観/選択肢以外に、社会や大人が選択肢をもっと声高に伝えることをしたらどうなるか。

もう少し、子どもも大人も生き方の選択肢が増えて、根本的な多様性が増すと思います。(多様性が増すと、国や企業組織の管理者はマネジメントしづらいので、本音では嫌なのだと思います)

自然体の町と本に囲まれた、忘れがたい体験

本:
1泊2日の旅から得ることや気づきが大きかったですね。

折:
いろいろ小難しいことも語ってしまいましたが、何より真鶴出版さんの宿泊施設の雰囲気が最高に良いので、そこを宿泊して感じていただけるといいのではと思います!

オルタナティビストなので、けっこうどこに行っても辛口というか、「みんないいと言うけど、ちょっとここはどうなの?」というタイプですが、真鶴出版さんについては全面的にお薦めできます。

本好きな方にとっては、宿泊施設の1階、2階の各所、ベッド脇などにも書籍が置かれているのですが、これがまたいろいろバラエティーに富んでいて、読みたくなるんです。

普段の私は、哲学、社会学、文化人類学、人事、キャリア、その他雑多なビジネス書を中心に少し小説やエッセイを読むくらいなのですが、地域、食、建築、住まい、国内外の小説、写真集などを見ながら「面白いな」と感じました。
ビジネス書系も置かれていますが、私とカテゴリーが少し違って、そういった面でも気づき発見があり良かったですよ。

ぜひ一度、真鶴出版さんでの「暮らし」を体験してみてください。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

折田ちなむ (chinamu oruta)のアバター 折田ちなむ (chinamu oruta) オルタナティビスト/人事領域コンサルタント

◆オルタナティビスト:既存の価値観や視点ではなく、「alternative(オルタナティブ)=別の生き方や見方」を探す人。
◆スタンス:「Unique,Ironical,Nature」をモットーに、「それ、みんなもおかしいと思ってない?!」という本音をアンチテーゼとして発信。
◆「折田ちなむ」とは:世に溢れかえる、ありきたりで横並びのSEOコンテンツではない、本音を発信するためのペンネーム(オルタナティブ→おるた)。
◆プロフィール:40代男性/家族(妻、息子2人)/人事領域のフリーランスコンサルタント(人材業界約15年、国家資格キャリアコンサルタント、2018年独立)/東京・神田にオフィス/某国立大学大学院修了/関東在住/人口3万人の海辺の田舎町出身/市民ランナー(サブ3目標)/読書・書評系Podcast運営

目次