2020年、痩せたい一心で走り出した折田ちなむ氏。村上春樹さんのエッセイとの出会いがランナーとしての闘争心に火をつけた。(聞き手:本体、話し手:折田ちなむ)
(本体:以下「本」)
「80kg-60㎏=20㎏の脂肪」を消去するためランナーになったということですが、最初はどのくらい頑張って走ったのですか?
(折田:以下「折」)
恥ずかしながら、到底ランナーとは胸を張って言えない状態でした。
2020年2月に走り出したのですが、11か月のうち、月間走行距離0㎞の月が2回。たった5㎞の月が1回。
2020年の1年間の走行距離が315㎞でした。平均すると月に28㎞ぽっきり。
約20年間、運動らしい運動をしていなかったので、ちょっと走ってもふくらはぎが攣ったり、ハムストリングスを痛めて走れなかったり、散々でした。
本:
本当に大学生までアスリートだったんですかね・・・?
折:
一応・・・。
フルマラソンも2回走ったことがあり、ネットタイム(スタートライン通過してからゴールまでのタイム)でサブスリー(2時間50分台)で走ったこともあるんですよ(えっへん)。
本:
過去の栄光を引きずるタイプですか?
折:
え!?いやいや、一応、事実ベースのお話だけしておこうと思っただけで・・・。
えー、まあ、という感じでランニングは再開したものの、走っても微々たるカロリー消費だし、衰えた肉体と走れなさにモチベーション上がらへんわー、という感じでした。
本:
そんな時に村上春樹さんのエッセイと出会ったということですが、小説家の村上春樹さんですよね?
折:
村上春樹さんのエッセイで、「走ることについて語る時に僕の語ること」という名作をご存知ですか?
私は2021年10月にこの本を読んで、「能力も富も名声も到底及ばないことに何も思わない。けれど、アスリートだった自分がランニングにおいてさえも村上春樹さんの後塵を拝している・・・」という冷酷な現実を突きつけられ、大きなショックを受けたんです。
本:
村上春樹さんというと、小説と音楽と料理、みたいなイメージでした。
折:
フルマラソンだけではなく、トライアスロンもされていた、超人なんですよ、実は。
この書籍当時(村上春樹さんが50代までの頃)で、月間250㎞ほど走られていらっしゃったようで。
つまりは、ひょこひょこ走り出した2020年の自分の10倍近くの距離を走られていたんです。
イメージしやすく説明すると、毎日毎日10㎞くらい走り続ける、そんな感じです。
本:
それが折田ちなむさんのランナー魂に火をつけた、と?
折:
僭越ではありますが、「ランナーとしてだけは負けられない・・・!!!」と、強く思いましたね。
そこで翌月から走る量を増やし、2021年11月は月間走行距離が206㎞まで増えました。
とはいっても、2021年の年間走行距離は1282㎞、月平均107㎞と、まだランナーとは言えない水準でした。
本:
そうご謙遜されずに。昨年対比で3.8倍の高成長じゃないですか!(月間走行距離)
折:
いやー、まあそんな褒められると照れちゃうなー。何もでませんよ??
本:
せっかくなので、村上春樹さんの書籍からありがたい言葉を1つ2つ教えてください。
折:
わかりました、いいでしょう。
村上春樹さんの「性格(ネイチャー)」という言葉と、「ランナーとしての矜持」を感じさせてくれる部分をまず挙げさせてください。
たとえタイムがもっと落ちていっても、僕はとにかくフル・マラソンを完走するという目標に向かって、これまでと同じよう‐ときにはこまで以上の‐努力を続けていくに違いない。そう、誰がなんと言おうと、それが僕の生まれつきの性格(ネイチャー)なのだ。サソリが刺すように、蝉が樹木にしがみつくように、鮭が生まれた川に戻ってくるように、カモの夫婦が互いを求めあるように。
走ることについて語る時に僕の語ること(p222)
だって「ランナーになってくれませんか」と誰かに頼まれて、道路を走り始めたわけではないのだ。誰かに「小説家になってください」と頼まれて、小説を書き始めたわけではないのと同じように。
走ることについて語る時に僕の語ること(p223)
- 本:
今回は大作家・村上春樹さんのお話で、初めて有意義なインタビューになった気がします。ありがとうございました! -
折:
ミーハーなんだから。
でも、この書籍は村上春樹さんがどのような態度で生活し、創作活動に向き合っているか、お人柄も理解できる隠れた名作なので、ぜひ読んでみてください。